研究機関・企業・住民の連携が進み、発展が続くけいはんな学研都市において、研究・開発が進められている先端的なシーズである超音波。国連で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)にもつながる、超音波の利用と活用の状況について、あらためて考える機会となりました。
2018年8月29日(水)13:30~16:30
会場:大阪イノベーションハブ
(大阪市北区大深町 グランフロント大阪ナレッジキャピタルタワーC棟7階)
主催:(公財)関西文化学術研究都市推進機構
共催:(公社)関西経済連合会、大阪イノベーションハブ
協力:(国研)科学技術振興機構
後援:同志社大学リエゾンオフィス、日本大学理工学部
- 主催者挨拶
関西文化学術研究都市推進機構 常務理事・事務局長 中川雅永
- 講演1「強力超音波を用いた各種アクチュエータの開発」
同志社大学理工学部
電気工学科 超音波エレクトロニクス・応用計測研究室 教授・博士 小山 大介 氏・超音波の研究は、「複合領域」の研究。電子工学、物理学、計測、生物学等々、関連する分野が多い。現在一般的に利用されている超音波は、「通信・診断・計測」、「エネルギー利用」、「電子デバイス」の3つに大別。物理的には20kHz以上の周波数の音を超音波と言う。
・ 超音波では、どのようなことが起きるのかというと、大まかには「音響反射力」「音響流」「大きな加速度」「キャビテーション」「非線形ひずみ」「吸音による発熱」のような、特殊な現象が生じる。
・主にアクチュエータを用いた強力超音波を研究。一番有名なアクチュエータ(振動子)には「ボルト締めランジュバン型振動子」があり、超音波のアクチュエータは基本的に共振現象を利用している。
・こうした力を用いて、物を非接触で「持つこと」や「浮かせること」など、動きを制御できる。
・具体的には、「音響放射力による泥水フィルター」や「液体や気体の流れをコントロールするポンプ」、「他自由度モーター」や「他自由度モーターと組み合わせた光デバイス」、「音波放射力による物体浮揚を活かした超音波式非接触リニアガイドとスライダ」、「非接触回転モーター」、「音響放射力による超音波式液体レンズ」、「微小物体や液滴の非接触搬送」、「音響流を利用した超音波空気ポンプ」、「医療応用したフィルターや細胞のパターニング」などを今日は研究の一部として紹介している。超音波に関係あるかもしれない課題やアプリケーションについては、ご相談、ご連絡いただきたい。 - 講演2「強力超音波を用いた応用技術」
日本大学理工学部 電気工学科 助教・博士 大隅 歩氏
・同じ強力超音波でも「空中」に焦点をあててお話しする。人間には可聴限界の音圧レベル(最大可聴値)があり、凡そ120dB。これはジェットエンジン付近の音に相当し、これを超えるような空中超音波を強力空中超音波と呼ぶことが多い。
・空気媒質中の超音波の減衰は著しい。利用には20~50kHzの周波数帯が用いられ、最近では数百kHz~MHzの空中超音波も利用される。空中超音波用のトランスデューサーという、センサに使用する部材がよく使われる。
・強力空中超音波は、大まかに調べただけでも、通信計測応用、パワー応用で様々に利用されている。通信・計測では、触覚インターフェイスやパラメトリックスピーカー、弾性計測、非破壊検査が。また、パワー応用では、非接触搬送、乾燥や凝集、液体・微粒子の非接触除去、非接触撹拌、非接触加熱などがあり、研究をしている。
・気体媒質では巨大な音響パワーを発生させるのは困難であり、物体に作用させる強度が十分に得にくい。このため、放射された音波を、「回転放物面反射器」により、音波を集束させ、放物面の焦点に集める。
・点集束だけではなく、反射器を工夫して線集束や面放射タイプの音源も開発している。
・「液体の非接触霧化」、「細孔内の液体除去」、「微粒子の非接触除去・捕集」「微小容器内の液体撹拌」「ソフトマテリアルの非接触加熱」「非接触非破壊検査」が実現できる。
・こうした技術を使い、モルタル浅層の欠陥やき裂のイメージング、火害の影響イメージング、セメント硬化のモニタリングなどが実現できる。
・強力空中超音波の技術は、単独よりも他の実用化技術に組み込まれると、より大きな効果が得られると考えているので、是非問い合わせて来てほしい。 - 講演3「非接触空中超音波探傷事例」
株式会社ジーネス システム開発部課長 大久保 佳洋 氏
・空中超音波の技術、探傷事例として、「超音波」を用いて検査物を破壊せずに内部の状況、欠陥やボイド等を確認する非破壊検査方法をお話しする。
・会社を紹介すると、(株)ジーネスは、General Nondestructive Evaluation Systemの頭文字をとり、意味としては「非破壊評価システム全般」の意味を込めている。けいはんなの学研都市の京都府の精華町に所在し、1999年7月に設立された20年も経過していない若い会社。主な事業は、超音波を用いた検査装置の開発、製造、販売、コンサルティング、機器のメンテナンス、アフターサービス、弊社の非破壊検査装置のデモ機を使った非破壊検査の受託試験など。航空・宇宙ではJAXA様をはじめ大学様に、鉄道ではJR様関係、自動車関連企業、セラミックスや金属などの素材企業様に納入している。
・超音波の主な伝達方法としては、「直接接触法」と「水浸法」と「空中伝搬法」がある。
・「非接触空中伝搬法」(以下、「空中超音波」という。)は、空気を媒体として超音波を試験体に伝搬させる方法で、「透過法」が主に使われている。非接触で検査が行えるため、液体媒質の使用に適さないものに対応できるメリットがある。デメリットは、液体媒質を使用する方法と比較して大きなエネルギーが必要となり、検出できる欠陥のサイズが大きくなる。
・今回はアルミハニカム材、リチウムイオン電池、木材、耐火材の探傷例をご紹介する。詳細はご紹介しないが、弊社でCFRPのトランバースクラックという積層間に最初に発生する疲労損傷で、断面方向に発生するクラックの探傷方法については特許を取得している。
・空中超音波に関する今後の課題と展望として、1つ目は分解能。2つ目は反射法の実用化。3つ目に、X線やX線CTとの比較として、必要な費用の少なさや取扱いの資格不要という利用のしやすさからの普及についてと考えている。
・今日は空中超音波のお話しをしたが、弊社は水浸法を中心とした事業実績がある。何かお問合せやお話しがあればお声掛けいただきたい。 - パネルディスカッション
・11枚のアンケート回収に記載されている30問近い質問に、順次講師から回答。
・「空中超音波が、世の中にもっと出て行けば、設備も安くなりますし、ご来場の方が空中超音波に関心を持っていただければ良かったと思います。」(大久保)
・「今日は、強力空中超音波の技術に焦点をあてて、お話しした。音源は開発済みなので、それを活かすアイデアがあれば産業と学術の連携が上手くいくと思う。非常に面白い発想は、学術的にはどうかわかりませんが、産業に活かせるので連携を図りたいので、お声掛け下さい。」(大隅)
・「私は大学の教員ですが、新奇性が非常に重視される世界です。皆さんがそうだという訳ではありませんが、実用性よりも新奇性を優先させてしまいますが、工学を研究している身から申しまして、最終的に世の中に使っていただいてナンボと言うところがございます。先ほど大隅先生もおっしゃいましたが、そこのかい離を産学が連携して、企業様の方で我々が培ってきた技術を使っていただく、もしくは企業様の方で、こうした面白い現象があるから何かアプリケーションに使えませんかと言っていただくのは、非常に今後の産業の発展にとって重要かなと思っています。何かそうしたヒントをいただければと常々思っております。今後ともよろしくお願いいたします。本日はどうもありがとうございました。」(小山)